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TASCAM CD-500BのXLR出力をマイクレベルに落とすPADの設計

こんばんわー
ここ数日、急に暖かくなって来ました。

昼過ぎから日が落ちる前までのお出かけならコートも必要ない感じです。
週明けから寒くなるそうなので体調を崩さないように注意したいとことです。


さて、今回の記事の内容はPADの設計方法についてです。
その前にPADについて基本的な事項を説明していこうと思います。

■PAD?
PADというと聞き慣れない方が多いと思います。
当ブログを見ていただいている電子工作をされる方々には、
PADと書くよりATTと書いたほうが分かりやすいかもしれません。
基本的にPADはATTと同じ物を表します。
しかし、プロオーディオとくにPAやSRに於いてはPADという言葉が標準で使われます。
(読み方 ATT:アッテネーター PAD:パッド)


■PADは何をするか?
プロオーディオでは多数の音源をミキサに通してしてアンプに出力します。
そのため、ミキサの入力はラインレベルやマイクレベルと言った様々な入力信号の大きさに対応することが出来るように設計されています。(-60dBu~0dBu=775[uV]~0.775[V])
しかし、入力に一定上の大きな信号が入力されるとミキサの入力段が飽和し音が割れたり操作性が著しく悪化するといった事が起こります。

これを防ぐためにPADという機能が付随しています。
先にも述べた通りPADはATTと同義であり、信号を任意の大きさに減衰するものになります。

このPADはミキサの入力チャンネル毎に搭載されており、マイク等の微小な出力しか持たない機器を入力する場合はPADを外すことで減衰を行わず大きな増幅度を得ます。
逆に、CDP等の規格で定められ、マイクよりも遥かに大きな出力を持つ機器を入力する場合はPADを入れることで減衰を行い、初段の飽和を防ぎます。
(読み方 CDP:CDプレーヤー)


■そもそも何故PADを設計しようと思ったのか
ここ数日、ツイッターでTASCAMのCDPの出力レベルが大きすぎてフェーサー操作がしにくいという話を見かけました。
1年ぐらい前に後輩も同じ事を言っていたなと思いつつ、昔の記憶を思い出してみると…
昔のTASCAMのCDPには背面に出力レベル調整ツマミが付いていたのですが、今は背面にツマミなんか付いていないし開けても調整できないモデルもあります。
基本的にTASCAM CD-500Bの出力レベルに関してはテクニカルサポートでの対応になると説明書には明記されています。
ならば、TASCAMの出力レベルをいっその事マイクレベルまで下げちゃうATTを設計しよう。
というのが事の発端です。
(マイクレベルま下げる理由はYAMAHA LS9等のデジタルミキシングコンソールの場合PADがシームレスになっていて、ゲインを一定以下に下げることで入るようになっているそうです。問題はその瞬間にカチンというリレー音と共に出音が途切れるからです。)


ここからが本題となります。


TASCAM CD-500BのXLR出力をマイクレベルに落とすPADの設計
※全ての数式と回路図はクリックすると大きい画像を表示します

①目的
ミキサはYAMAHA LS9,MG32,GF24を標準とし、通常入力チャンネルを使用したとする時にTASCAM CD-500Bの出力をマイクレベルまで減衰するものとする。

②仕様を調べる
CD-500B
 出力インピーダンス:150[Ω]
 出力規定レベル:+4[dBu] (=1.228[Vrms])
YAMAHA LS9,MG32,GF24
 入力インピーダンス:3[kΩ]
 目標入力レベル:-60[dBu] (=775[uVrms])

③PADの設計を行う
今回設計するPADはπ型やO型と呼ばれるものになります。
回路図は以下のようになります。

ATT-01.jpg

PADと一言で言ってもπ型以外にもU型やT型など様々あります。
記事を書く以前に設計をしてみたのですがπ型以外だと極端に低い抵抗値を使用するため、今回のような減衰量の大きなPADの場合はπ型が良いと考えられます。

計算の方に移って行きましょう。
まず、PADで減衰させる減衰量を求めます。
マイクレベルは-60[dBu]でCDPからの出力は+4[dBu]となっているので

mt1-01.jpg

上記のように加算によって求めます。
続いて、入力信号を何分の1にするかを決定するKを求めます。

mt1-02.jpg

信号減衰比などと言ったりしますが、アンプで言う利得を増幅度に変換するのと同じ原理です。
計算をしやすいように予め定数であるgとSを以下のように計算します。
Sは入出力インピーダンスの関連式でZiは入力インピーダンス、Zoは出力インピーダンスとなります。
ここでは信号インピーダンスを完全にマッチングする事として、Zi=150,Zo=3000とします。

mt1-03.jpg

mt1-04.jpg

実際にR1-R3までの各抵抗値を求めていきます。

mt1-05.jpg

mt1-06.jpg

mt1-07.jpg

以上の計算結果から抵抗値を記入した回路図は以下のようになります。

ATT-02.jpg


④設計したPADを検証する
設計したPADに+4[dBu]の信号を入力した場合の出力電圧を検証します。
機材間の接続まで考慮した回路図は以下のようになります。

ATT-05.jpg

まずCDPからの信号インピーダンスとPADのインピーダンスによって生じた電圧降下を考慮してPADに入力される電圧Vi'を求めます。

mt1-08.jpg

続いて、PADへの入力電圧Vi'からPADが成す分圧回路の式を解き、出力される電圧を求めます。

mt1-09.jpg

目標の電圧が775[uV]に対して、このPADでは1.738[mV]と一桁高い電圧が出力されています。
目標値の775[uV](-60[dBu])に対して、どの程度減衰量が異なるかを以下の式で求めると、

mt1-10.jpg

となり、7.237[dB]ほど減衰量が足りていないことになります。


⑤補正を行う
先に設計したPADだと-57dBしか実現できていないので、補正を行い-64[dB]を得るようにします。
設計手法自体は前述と同じですが、減衰量に補正を行います。
補正方法は先に設計したPADの減衰量に不足している減衰量を以下の式のように加算します。

mt2-01.jpg

続いて、定数K,g,Sを再度計算します。

mt2-02.jpg

mt2-03.jpg

mt2-04.jpg

入出力インピーダンスには変更がないのでSは変わりません。
補正した定数Kを用いて再度R1-R3の抵抗値を実際に求めると、

mt2-05.jpg

mt2-06.jpg

mt2-07.jpg


となり、PADの回路図は以下のようになります。

ATT-03.jpg


⑥補正したPADを検証する
補正したPADに+4[dBu]の信号を入力した場合の出力電圧を検証します。
機材間の接続まで考慮した回路図は以下のようになります。

ATT-06.jpg

回路図の抵抗値はE系列に合わせて修正していますが、以下で行う計算はE系列に合わせていない抵抗値で行います。
まずCDPからの信号インピーダンスとPADのインピーダンスによって生じた電圧降下を考慮してPADに入力される電圧Vi'を求めます。

mt2-08.jpg

続いて、PADへの入力電圧Vi'からPADが成す分圧回路の式を解き、出力される電圧を求めます。

mt2-09.jpg

目標の電圧が775[uV]に対して、このPADでは752.5[uV]とほぼ近似した電圧が出力されています。
目標値の775[uV](-60[dBu])に対して、どの程度減衰量が異なるかを以下の式で求めると、

mt2-10.jpg

となり、0.03[dB]ほど過剰に減衰していますが問題無さそうです。


⑦抵抗値をE24系列に合わせる
先に書いてしまったのですが、計算によって求められた以下の回路図を

ATT-03.jpg

市販されていて入手性が良いE24系列の抵抗値に修正したのが以下の回路図になります。

ATT-04.jpg


⑧入出力インピーダンスを検証する
ここでは、目標通り入力インピーダンスが150[Ω]、出力インピーダンスが3[kΩ]となっているかを確認します。
入力から見た時と出力から見た時に回路図を書き直すと以下のようになります。

ATT-07.jpg

まず、入力インピーダンスを考えると、150[Ω]の抵抗に1243[kΩ]の抵抗が並列になっているので
入力インピーダンスはほぼ150[Ω]となります。
実際に計算すると150.0[Ω]になります。

次に、出力インピーダンスを考えると、3[kΩ]の抵抗に1240[kΩ]の抵抗が並列になっているので
入力インピーダンスはほぼ3[kΩ]となります。
実際に計算すると2.993[kΩ]になります。


⑨補足事項
電圧の計算を行う際にA//Bというような電気でしか使われないような特殊な表現をしました。
これは抵抗器の並列回路において合成抵抗値を求める事を意味しています。
実際は以下のように計算を行います。

mt0.jpg





さて…
こんな感じでPADの設計をしたは良いのですが…

そもそもPADに高精度なんて求められていません!
さらに、-64[dB]とか減衰しすぎで出力インピーダンスが3[kΩ]とか!

実用性は非常に無いような気がします。
想定された機材構成なら確実にマイクレベルになると考えられますが、保証出来ません。
ごめんなさい。

今回のπ型PADの設計方法は
Handbook for Sound Engineers 4th Edition (pp767-777)
あたりに記載されています。
洋書で高価なので図書館などで読むことをオススメします。

また、lin​ear​_pc​m01​53さんのブログにあるエクセルシートを使うと非常に簡単に求められると思います。
lin​ear​_pc​m01​53さんのブログへのリンク

PADに高精度は要求されないのでlin​ear​_pc​m01​53さんのエクセルシートがベストエフォートです!!!
全力でオススメします。



久しぶりに数式満載な記事を書かせていただきました…
次回は何か作る系の記事を書きたいですね。
それでわ!!


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  1. 2013/02/03(日) 23:42:16|
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